息子トムは高校3年生となり、ほぼ毎日塾の自習室に残って遅くまで勉強するようになりました。最寄り駅に着くと深夜に近いことも。
そんなある日の事、家に着くなりトムが浮かない顔で言いました。
トム:「お母さん、さっきR君を駅前で見かけたよ」
私: 「R君? 誰だっけ??」
トム: 「小学校の時に同級生だった、R君だよ」
私: 「・・・・あああ、あの、スイミングスクールでも一緒だった、R君ね!🤗水泳がめっちゃ上手だった子だよね!!へえええ、懐かしいね。何か話したの?」
トム: 「・・・ううん、何も話してない。見かけただけで話はしてない」
私: 「声をかければ良かったのに。中学から別々になっちゃったから、小学校以来だよね。あんた仲良かったんじゃないの?」
トム: 「まあね。最近は時々、駅前のロータリーで見かけるんだ」
私: 「へえ、そうなの。R君はどこの高校へ通ってるんだっけ?」
トム: 「・・・いや、高校へは行ってないと思う。あれは高校生じゃない」
私: 「・・・へ?どゆこと??」
トム: 「駅前のロータリーで、深夜に仲間と一緒に酒飲んでるんだ。・・・ヤンキーなんだよ」
私: 「は?あのR君が?
スイミングスクールで黒キャップ被ってて、オリンピック強化選手だった、あのR君の事だよね?」
トム: 「そう。あのR君だよ。でも今は髪は金髪で、爆音の出る改造バイクに乗ってて、ヤンキーとつるんでて・・・最初は誰だか分からなかった」
私: 「人違いじゃないの?今頃はオリンピック目指して頑張ってるはずじゃ・・・・ あっ、、もしやあの中学で、、、?」
トム: 「そう、地元の〇〇中学で、不登校だったらしい」
・・・私は絶句しました。
R君といえば先生も友達もリスペクトする名スイマーで、スイミングスクールでもオリンピック強化選手として大切に育てていた児童でした。ところが地元中学に進学後、それが気に喰わないという理由で、上級生から壮絶ないじめに遭い、次第に不登校になり、両親の離婚もあって不良になってしまったというのです。(小学校のママ友談)
酒・たばこ・不純異性交遊など様々問題を引き起こし、中学を卒業しても高校へは進学せず、地元の暴走族のような仲間とつるんでいたという話でした。18歳にして既に「妻子」があり、しかもすぐに離婚したとの噂もありました。
その中学では、スイミングの特別な才能があって、先生や友達に一目置かれているなどというのは、かえって負の情報なのでした。上級生に妬まれたり疎まれたりして、いじめられるのは時間の問題だったのでしょう。R君は中学1年生の終わり頃には、既に学校に来なくなっていたそうです。
親に愛情をかけられているというだけの理由で、嫌がらせに遭う環境です。特別な才能があって周囲もそれを敬っていようものなら、いじめる側の生徒の格好の餌食です。トムがそこへ通っていたらと思うと、私は慄然としました。あんなに将来を嘱望されていたのに、残酷すぎる。
日本の義務教育制度に対するやり場のない憤りで、数日間は悶々としていました。病んだ者達によって、子供の才能は潰され、将来は奪われる。
大学受験を目指して深夜まで勉強に励む息子と、ヤンキー仲間とたむろして駅の路上で酒を飲むR君の姿を思い浮かべて、私は言いようのない悔しさを感じると同時に、あの時の自分の選択、つまり中学受験は正しかったのだと初めて確信したのでした。これからの大学受験の結果がどうであれ、中学受験をして今の学校に入っていなければ、トムはそのR君たちの輪の中に、居た可能性だってあるのです。R君のお母さまとは一時よくお喋りをしていました。スイミングに限らず、学校のマラソン大会でも運動会のリレーでも、常に1位のヒーロー的存在の息子R君を、とても愛情深く一生懸命育てていて、明るくて賢い女性でした。なのに、どこでどうしてこうなったのか・・・。
高校進学や大学受験だけが正しい道だとは全く思いません。本人が今幸せならば、それでいいのかもしれません。しかしR君の才能が発揮できる輝かしい前途が、不本意にも途中で閉ざされたのは事実です。学校のいじめだけが問題だったのではないのかもしれません。真相は分かりません。
ただ家庭環境、親の経済状態、学力レベルの異なる子供達を一同に集めて、労働集約的に画一的な教育を施す事の弊害を、大人達は深刻に捉えて早急に制度を変えていかなくてはいけないと思うのです。教育は国の基盤であり、子供は国の宝です。※私は共産主義者ではありませんが※ 長期の休み明けの中高生の自殺が減らないのも、すべてはこの時代遅れの教育制度の弊害なのだと、私は勝手に一人で憤慨しました。
皆んなの羨望と尊敬を集めたかつての旧友の変わり果てた姿に、トムは少なからず衝撃を受けているようでした。
それ以降、トムがR君に言及する事は、二度とありませんでした😢