息子トムの1回目の大学受験は、第一志望を東京大学理科Ⅰ類(偏差値75)、私立は慶応理工学部(偏差値68)、東京理科大工学部、理学部(偏差値64)、後期に東京工業大学(偏差値66)※実際には受験せず を受験しました。東京理科大の理学部はセンター利用で無試験、工学部は名古屋の河合塾の校舎で受験しました。慶応は2月の頭に試験日があり、夫が付き添って前泊し、三田のキャンパスで受験しました。早稲田は創造理工学部(偏差値66)を受験しようか迷いましたが、試験科目が英数理に加えて「空間表現」なる科目があり、試験日が2日間に渡るため時間効率を考えて受験は取りやめました。結果は東大以外はいずれも合格でしたが、トムは全く反応を示しませんでした。中学受験の時と違い、私大の合格が、本命受験の際の自信や安心につながる様子はありませんでした。「浪人はできない」が前提で、東大に落ちたら私大に行く約束にしていたため、私が半ば無理やり受験させたせいもありました。私から見れば、慶応や東京理科大など、きらびやかな大学から合格を頂いて、もうそれだけで親としては有頂天なのに、当の本人はその合否すら関心がない様子でした。あの受験料や高額なホテル代はなんだったのだろうと憮然とするとともに、この頃から嫌な予感が漂っていました。
東大二次試験は2月の後半の2日間に渡って実施されました。私が付き添って前日に新幹線で移動し、東京ドームホテルに宿泊しました。前日の昼頃ホテルにチェックインすると、荷物を置いて二人で早速本郷キャンパスに下見に出かけました。
東大本郷キャンパス
キャンパスは翌日の入試を控えてか学生の姿も殆どなく、試験予定のあちこちの校舎には立ち入り禁止の貼り紙がドアに貼られていました。赤門を抜けて銀杏並木を歩き、工学部や法学部の歴史ある校舎や、安田講堂や三四郎池などを見て回りました。戦前に建てられた校舎のほとんどが「ウチダゴシック」と呼ばれるスタイルで、有形文化財に指定されているそうです。各校舎は、歴史を感じさせる美しい装飾が施された柱や窓が印象的で、まさに「知の最高峰」を感じさせる荘厳で広大で美しいキャンパスに、私はひたすら溜息と共に圧倒されました。トムは高校主催のキャンパスツアーに参加して、以前にもキャンパスに来た事がありましたが、私は本郷キャンパスを見学するのはこれが初めてでした。赤門前にはどこかの局のTVカメラを構えた取材陣が居て、明日から始まる二次試験について報道しているようでした。同じように下見に来ている親子に、マイクを向けてインタビューしています。 取材されるお子さんは皆頭が良く、開成か灘の生徒に見えました。
「こんな大学に入れるのだろうか」
田舎の無名高校から、途方もない場所に来てしまったものだと思いました。いつのまにか子供に引きずられるようにして、こんな場所まで来てしまった。…と同時に、もう引き返せない場所にいるのだとも思いました。
真冬の寒さと相まって、腹の底から底冷えするような緊張感に襲われました。とにかく今自分にできる事は、トムを無事に試験会場に送り込む事。それだけに集中しようと思いました。
試験当日はトムと二人、ホテルで朝食をとった後、あらかじめ予約購入しておいた「東大合格弁当」を受け取り、タクシーでキャンパスに向かいました。東京ドームホテルでは東大受験生を当日二度に分けて本郷キャンパスまでバスで送る無料サービスがありますが、前日にチェックインしたため、既に満席でした。
タクシー乗り場で並んでいると、我々の横を、ホテルに宿泊した受験生達が「東大行バス」に続々と乗り込んでいきます。トムと同じような理系のメガネ男子ばかりが、お守り替わりの参考書や問題集を手に、ホテルが用意した弁当が入った紙袋を受け取って、無言のまま大量にマイクロバスに乗り込んでいきました。バスの窓に向かって手を振るお母様もいましたが、恥ずかしいのか緊張からか、バスの窓からそれに応えるお子さんはいませんでした。さらにほぼ全員が男子なのには驚きました。
東大生全体に占める女子の割合は、依然として2割程度で、首都圏出身者が6割を占めるとのデータを以前見た事があります。
まさに都心の「ローカル男子大学校」という印象を受けたのでした。
…続く