私は仕事で時々東京に出張するので、そのつど渋谷や新宿界隈の焼き肉屋でトムと一緒にご飯を食べ、近況を確認しました。初めての一人暮らしと大学生活で心配していましたが、なんとか楽しそうにやっているのを確かめて安心していました。
「東大からの人」になりたい!
ところが1年生の夏休みにトムが帰省した時の事です。これまでとは様子が違い、トムが珍しく深刻な表情で切り出しました。
「東大生っていわゆる『東大までの人』と『東大からの人』に分かれるんだよ。けっこう衝撃だけど、それが現実だった🤕」
とトムは神妙な顔で話します。
まさか退学したいとか言い出さないでしょうね!?・・・私は内心ひやひやしながらも、
私:「まぁ、どこの大学でもそんなものじゃないの?」と敢えて一般化してみると。
トム:「違う!東大生は特にそうなんだよ。東大特有なんだ」
私: 「え??どゆこと??」
ついこの間まで、東大に恋焦がれて入学した息子に、一体何が起こったのか?
入学から数ヶ月間でなにやら様子が変わってしまっているトムに驚きつつも、東大という環境がどのような影響を息子にもたらしたのかと大きな不安と期待を抱きながら、私は息子の話を聞きました。
トム: 「特に俺みたいな田舎出身の東大生は、全然ダメなんだって気付かされたんだよ。東大生だから安泰だ~なんて、ちょっとした潜在意識が俺にもあったんだ。」
私: 「・・・そうなんだ。でもなんで地方出身の東大生はダメなの?」
トム: 「東大生は特に注意しなければいけないんだよ。
東大っていうだけで周りから認めてもらえるから慢心しちゃうんだ。自分自身も『東大なら大丈夫なんだ😳』と錯覚しちゃうんだよね。だからより一層、大学入って燃え尽きやすいんだよな。
実際クラスに入ってみたら、都内出身の奴は大学入学した瞬間から何かしら自分の目標を決めて、速攻で行動してる奴が多いんだよ」
トムのクラスは特に都内出身の学生が多く、受験生時代から既にやりたいことが決まっていて、大学に入った直後から勉強とは別に部活や第二外国語に猛烈に打ち込んだり、起業する学生やノーベル賞を目指す学生までいるそうな・・・
トムはその事実に直面して焦りを感じたようなのでした。
トム: 「俺は『東大までの人』にはならない!」
私: 「ほう。なにするの?」
トム: 「法律を独学で学ぶことにした!」
私: 「はぁ?・・・君は理系だよね。」
トム: 「法律の知識は将来の生きていく上での武器になるんだよ」
・・・トムが大学の授業後、図書館に通って法律の勉強を開始したのはこの時期からでした。
大学では、学生に人気の建築学科や機械工学科卒で、現在は各業界で活躍されているOB・OGを招いての講演会形式の授業があるらしく、工学部出身の某起業家の話を聞いて、大いに触発されたらしいのでした。
トム: 「その人も工学部出身で、弁護士資格も持っているんだ。起業に活かせるんだよ」
私: 「あんた起業したいの??」
トム: 「わかんないけど、いずれはね」
私: 「ほ~~~~~。投資の少ないIT系にしてね。あとホリエモンみたいに中退なんかしないでよ」
トム: 「中退なんかしないよ。東大っておもしろいもん。すげー奴がいっぱいいるし。」
いきなり水が合わないから中退したい、などと言い出すのではないかと一瞬ヒヤヒヤでしたが、環境から良い刺激を受けて新しい事に挑戦しようとしているトムに安心すると同時に、東大という環境は改めて凄い人達の集合体なのだと感心したのでした。