~東大二次の親の心得~でも触れましたが、2度目の東大二次試験は2日前から「東京ドームホテル」に投宿しました。ホテルのチェックイン時に、試験2日間の本郷キャンパスへのシャトルバスの運行サービスの予約と、お弁当の予約をしました。20~30人ほど乗れるシャトルバスによる運行サービスは、朝8時台に2回あったのですが、前年度は試験前日にチェックインしたため、既にバスは2回分とも満席でした。今回は試験日2日間とも予約が取れました。※2020年2月はシャトルバスの運行サービスは実施されないようですのでご注意ください。
試験前日はホテルで夕食を済ませると、それぞれ別々の部屋へ引き上げました。トムが何時まで起きていて何時に寝たのか分かりせんが、翌朝は寝過ごさないよう念のために7時に部屋のチャイムを鳴らしました。「おう」と言ってドアを開けたトムは既に身支度を終えていて、客室内の机上には勉強道具が広げてありました。
私: 「まさか、眠れなくてずっと勉強してたとか?」 ・・・心配になりトムに尋ねると、
トム:「そんな訳ないっしょ。ちゃんと眠れたよ」
そして二人でホテルの和食のレストランに行き、和定食を頂きました。トムは幼い頃から「(白い)ご飯」「味噌汁」「納豆」が大好きで、それだけあれば満足できるような子供でした(戦後の昭和の子供のようですが😓)。焼き魚や卵焼きなど、「美味しい、美味しい」と言って堪能していました。
私: 「緊張してる?」 …思い切って聞いてみると、
トム:「まあね。でも去年ほどじゃないよ」
私には去年とは明らかに違う余裕すら感じました。去年は「食事なんてなんでもいい」という感じで、その挙動にはいちいち不安や焦りを感じましたが、今回は「朝食はいつものように和食をちゃんと食べたい」とリクエストされました。客室を別々にしたことで、ちゃんと眠れたことも大きいと思います。食事を終えて席を立つとき、近くで他のテーブルを拭いていた着物姿のお運びの女性が、わざわざこちらに向き直り、「どうぞ、行ってらっしゃいませ!」と深々とお辞儀をしてくれました。これから受験会場に向かう若者に、負担にならないエールを送っているように感じて、お腹の底が熱くなったのを憶えています。20分程度で朝食を済ませ、いったんそれぞれの部屋へ戻りました。
そして午前8時、再び一緒にロビーへと降りました。すると広大なロビーの一角に大きなテーブルがしつらえられていて、その上には東大受験生用の「合格弁当」の入った紙袋が山と積まれていました。それをホテルが方々が受験生一人一人に手渡しています。見ると合格キャンディや合格クリアファイルなども入っていて、思わずほっこりとしたものです。
「いざ、出陣。」
吹き抜けのロビーのガラスの向こうには、巨大なシャトルバスが既に停車しているのが見えました。「合格弁当」の紙袋を手にした受験生が、母親達に見送られて次々にバスに乗り込んでいく姿が見えました。バスの周囲には発車を待つ母親達の姿。去年と同じ光景ですが、今年はこれにトムが加わるのです。
トムは弁当を受け取ると、おもむろにエントランスのバスの方向に体を向けました。そして一瞬私を振り返ると、
トム: 「じゃっ。行ってくるわ。お母さん、ここまでありがとね」
と妙に清々しく、しかし低い声で言いました。私は咄嗟に返事ができず、
私: 「う、うん。頑張ってね」
トム:「ここでいいよ。もうここで。」
・・・あまりに毅然と言い放たれてしまい、私は思わずその場に固まってしまいました。それは、「親と一緒で格好悪い」といった羞恥心からというよりも、「これから独りで戦場に向かうんだ」という闘志が、言わせているのだと直感しました。
私はそのままその場で立ち尽くし、トムの後ろ姿を呆然と見送りました。トムは一度も振り返る事なくロビーを横切ると、エントランスを抜けて受験生の列に加わりました。そしてそのままバスに乗り込み、座席に座ると手にした参考書を広げて目を落としました。駆け寄って他の母親達と一緒にバスの外から窓に向かって手を振りたい衝動に駆られましたが、なぜか体が動きませんでした。そしてただただ目頭が熱くなるのを感じました。
ホテルのドアボーイが、予約した全ての受験生が乗車した事を確認すると、運転手に合図を送り、バスの扉は締まりました。巨大なシャトルバスはゆっくりと動き出し、見送りの母親達が一斉に我が子に向けて手を振りました。中には手を振り返したり、笑顔でピースサインを送る子もいましたが、その殆どは手元に目を落としたままか、真っすぐ前を向いたまま、無表情に見えました。トムも真っすぐ前を向いたまま一度も窓の外に顔を向ける事なく、バスは発車して、やがて私の視界から消えていきました。
武器となる鍛え上げた思考力と、長年使い慣れたシャーペン一本で、勝利を目指して戦場ならぬ試験会場におもむく我が子の後ろ姿を見送り、私は思いました。
「私も、親としてやれることはやり切った。次に進もう」
清々とした気持ちと、感傷や不安、心配する気持ちが交錯していましたが、なんとか気持ちを切り替えようと努めました。
私は踵を返すとそのまま一人で客室に戻りました。
不動産会社に電話を入れ、学生マンションの内覧の予約を2件取り付けました。そしてその時間までは部屋で仕事に没頭しました。受験旅行で3日間も休みをもらっているためメール処理が溜まっていて、部下にも遠隔で業務指示を出さなくてはなりません。会社の業務用iPhoneには着歴が何件も溜まっていて、それを処理するのにしばし没頭しました。ホテルの部屋でまんじりともせず我が子の成功を祈るのは、私には到底耐えられませんでした。
ただし、さすがに試験開始の時間には、両手を合わせて拝みましたが😅
「トムがこの1年の努力の成果を、120%発揮できますように」
11時からは不動産会社の人と待ち合わせて、合格後の新居となる学生マンションを2件ほど見て回りました。そして環境の良さそうな、京王井の頭線沿いの家具食事付きの瀟洒な学生マンションに決め、入居の予約を入れました。しかし予約は既にキャンセル待ちが5人ほどいて、不動産屋からは3/10の合格発表日に、正式な入居の回答をする前提で仮契約をしました。合否が判明すると不合格者からキャンセルが出るため、最終の契約者数は調整されていくとの事でした。
どこでも親がちゃんと先回りして準備をしているのだなぁ~、などと妙に感心しながら、その日は夕方までにホテルに戻り、仕事をしながらトムの帰りを待ちました。
…さて、トムが東大を目指し出した時に、親の心構えや貢献できる事などについて身近に相談できる東大生の親御さんが居なかったので、もっぱら和田秀樹さんや佐藤亮子さんの著書を参考にしていました。特に和田さんは、ご自身が高校時代は「劣等生」と言われて過ごした経緯があり、ふとしたことから「ある勉強法」に気付いて独自の大学受験合格法を開発し、なんと東京大学医学部に現役合格されています。そのメンタリティや効率的な勉強法、思考法に見習うべき部分が多くて、かなり参考にさせて頂きました。
「なんで息子が東大受験生に!?」と戸惑われている親御さんには一読の価値ありです。東大生は生まれつき頭が良いのではなく、勉強法を知っているのだということに気づけば、我が子をもっと信頼して応援できるようになります。「受験はテクニックである」と腹に落とせば、無用な心配もしなくて済みます😉