併願私大の入試
浪人時代の私大の受験校は、前年と同じく慶応大の理工学部に加えて、早稲田大の先進理工学部を受験して合格していました。トムが志望する建築科は、早稲田の創造理工学部になりますが、受験科目に「空間表現」なるデッサンの実技があり、試験日程も2日間に渡る事から、それを避けて先進理工を受験したのでした。国立後期は東工大第6類で、こちらも一次は合格していました。
ウチの経済状態からいうと、東京で私大に行かれるのはかなり厳しいので、慶応と早稲田の2校はほとんど記念受験に等しいものがありました。慶応大の受験には夫が同行したのですが、トム曰く「お父さんのいびきがひどくて、前夜は全然眠れなかった。早稲田の受験は一人で行きたい」というので、受験慣れも兼ねて早稲田の受験は独りで行かせました。本命の東大では、ホテルは2日前から2部屋、つまり3泊X2部屋を予約しましたが、私大は前夜からの1泊X1部屋でした。
その代わり宿泊ホテルは奮発しました。慶応は2回とも「ザ・プリンスパークタワーホテル」、早稲田は「ホテル椿山荘」です。いずれも高級ホテルで、スマホの予約アプリであらかじめ私が予約しておきました。かなり贅沢かとも思いましたが、最難関の私大に挑戦するのに、しょぼい旅館では闘志が湧かないかと思い、奮発したのでした…親バカです😓
子供の受験とは、中学受験でも大学受験でも、親の金銭感覚が狂うものです。それぞれ1泊2日でしたが、夕食・朝食代も含め結構な額になり、親が同行すれば交通費も含めて出費は2倍になる訳ですから、独りで行きたいと言い出してくれたことは、ラッキーだと思っていました。
早稲田大入試に大遅刻😱
ところが単身の受験旅行となった早稲田大の入試の当日、トムは試験に大遅刻したのです。トムにはGPSを持たせていたので、試験時刻直前にトムの位置情報をスマホのアプリの地図で確認してみました。すると集合時間になっても、トムの現在位置を示す赤い矢印マークは、早稲田大の上にはなく、そこから500mほど離れた「ホテル椿山荘」の上のままなのです。地図の表示上の誤差なのかバグなのか、はたまたまだホテルに居るのか、私は慌ててトムの携帯(ガラケー)に何度も電話するも、留守電になるばかり。
「まさか、まだ寝てるんじゃ?」と嫌な予感がして、慌ててホテルのフロントに電話してトムの客室に電話を入れてもらおうとしました。するとフロントの女性は「つい先ほど、チェックアウトされました」との事。
時刻は集合時間を過ぎ、すでに試験開始時刻を過ぎています。
「なにしてんだ、あいつは!!」 イライラが止まりません😡😡😡
再度GPSで確認すると、トムの位置情報を示す赤い矢印マークが、もの凄い勢いでホテルから早稲田大へ移動しているのが分かりました。試験開始時刻から20分を過ぎると、試験会場への入室が禁止され、受験資格を失います。ホテルと大学の距離は地図上では500m程度で、猛ダッシュで走るトムの姿が目に浮かびました。
「やはり一人で行かせたのが間違っていたのか・・・😭😭😭 」
ギリギリ最終入室時刻に滑り込んだようでした。トム曰く「ホテルがもう少し遠かったら、危なかった」と。
そして遅れた理由はなんと、ホテルのルームサービスを利用して、客室で朝食をとっていたら、チェックアウトがぎりぎりになったと言うではありませんか。あまりに素晴らしく美味しくて堪能してしまい、ついつい時間を過ごしてチェックアウトが遅れたというのです。・・・入試当日に高級ホテルのルームサービスで朝食を優雅にとる浪人生。
「アホかお前は!観光か!?😡」
私が憤死しそうになったのは言うまでもありません。
やはり分不相応の贅沢を、子供にさせるものではないと思いました。それでも試験に間に合い、合格まで頂いてしまっては、人生舐め切ったヤツになる事必至です。浪人受験生の身である現実を忘れさせるほど、「ホテル椿山荘」は素晴らしいホテルで、滞在中には勉強の合間にその庭園を散策したりして素晴らしい気分転換になったと申しておりました。
この一件でトムの中に、去年はかけらもなかった「精神的余裕」が生まれているのを感じました。本命ではないにせよ、ホテルの施設やサービスを堪能してやろうとする貪欲さ、遅刻しても挽回できるという自信、「人生なんとかなる」というしたたかさを感じたのです。短い間ながらも人生の光と影を見てきた浪人生ならではの「図太さ」「たくましさ」「したたかさ」を感じ、少しだけ頼もしくすら感じたのでした。
かわいい子には旅させよ、と昔から言いますが、やはりその通りだと思いました。未知の体験に一人で立ち向かわせる事は、精神的なたくましさを育む一番の近道、あるいは王道なのだと思います。
・・・もちろん本命ではこんな失敗は許されないので、注意が必要ですが。早稲田入試の遅刻は、トム本人にも少なからず教訓を与えたようでした。